雨飾山荘の玄関前。左が加藤さん、右が西沢さん
INTERVIEW
雨飾山荘
雨飾山荘オーナー 西沢敏一さん
小田島建設常務 加藤政人さん
雨飾山北面の登山口にある雨飾温泉。平成3年に車道が通るまでは2時間かけて歩かないとたどり着けない秘湯でした。大自然に囲まれ、秘境感たっぷりの山小屋を運営しているのは、地元の建設会社である小田島建設さんです。
湯治場として作られた温泉小屋
山荘や雨飾山の歴史を語る西沢さん
西沢氏 昔は下のほうに集落があり、炭焼きのために山へ入っていたところ、温泉を発見したというのが始まりらしいです。別の場所に元湯というのもあるんですよ。でも、雪崩が起きにくいとか、水や材木の調達といった条件を考えて、ここに建物を建てたと思われます。
小屋は、村の裕福な人が湯治場を作れと命令したのがきっかけだったそうですが、指名された棟梁が18歳で、大変腕が良い人だった。棟梁をはじめ40人ほどの大工さんで2年にわたって建てたそうです。前払いで大工さんに給料を支払って、朝起きたら誰もいなくなっていたなんて話も聞いたことがあります(笑)。
看板には「梶山新湯」の文字。元湯もある
山荘の庭にある露天の「都忘れの湯
登山道については、最初は温泉を楽しむために道が作られたのだと思います。山頂までの道がいつ出来たのかは分からないですが、以前は沢を一直線に登っていく道でした。沢登りに近い形だったんじゃないでしょうか。
昭和42、43年頃には、今の登山道になっていました。あまりにも道が一直線で急すぎるので、少し蛇行するような道にしたりと、多少の変化を経て今に至っています。
内湯。泉質は重曹成分が多い炭酸水素塩泉
築100年以上。ブナ材を使った豪壮な雪国建築
立派な梁が天井を支える
西沢氏 小屋が建てられたのは明治30年ですから、130年くらい経ったのかな。よくもってるなあって思いますよね。食堂の向こう側と奥のほうは建て増ししたけど、あとは建てたときのまま。皆さん小屋に入ると、まずはね、「綺麗だ」と言うんですよ。
ブナ材で、小屋の周りの木を使っています。真冬になると、すっぽり全部雪のなかに埋まってしまいます。やっぱり雪がいちばんこわいですよね。重みで屋根がズドンと落ちることもですが、雪が消えていくときに、解けかたに偏りがあるから、重さの違いで屋根がズレてくるようなこともあります。
日々掃除もしていますけど、風がひと吹きすると梁の上に乗った埃がみんな落ちて、掃除してない部屋みたいになっちゃうんで、そういう面では大変ですよ(笑)。
歴史を経て黒光りする廊下
昔は最寄りの山口バス停から徒歩2時間だった
山小屋運営や農業で、この地域を守りたい
建設会社の常務ながら山小屋運営にも携わる加藤さん
加藤氏 前のオーナーは朋文堂さんだったんですけど、ここを手放したいっていう時に、ウチの会社に最初に声をかけていただきました。当時、この沢や後ろの沢で、工事もかなりしていたもので。やっぱりここを維持するってなると、治山とか治水の工事が必要になるということで、まあ一石二鳥って言うか、ここをやりながら工事が出ればと考えて、お引き受けをしたというのが実状です。
温泉自体お湯の質もいいですし、人が離れてしまえばもう駄目になってしまうので、何とか出来る限り維持していきたいなと思っています。
西沢氏 小田島建設さんは、農業など多面に渡って事業をされていて、それがまあまあ成功しているんです。もちろん苦労はたくさんあると思うんですけど。建設会社は、公民館事業や温泉事業だとか、地域のコミュニティで中心的な存在になってきているんですね。今では、東京から学生を呼んで農業体験をやったり、ここへ連れてきて山小屋の生活に触れさせる、そういうこともされているんです。だから、糸魚川ではコミュニティの中心じゃないですかね。
加藤氏 小屋で皆さんにお出しするご飯は、全部、小田島建設で作っている米です。あと野菜に関しても出来る限り地元のものを使うようにしております。登山者の方には、極力、朝弁当ではなく、温かい朝食をここで食べて行ってもらいたいと思っていて、朝食時間もいちばん早くて朝4時半です。
小田島建設が根知谷の中でお世話になって、育ててきてもらったことや、農業も担い手不足になって、だんだん荒れた土地が増えてくるだろうということで農業にも参入し、最終的にはこっちの温泉も管理するようになりました。
地域に恩返しをするという経営者の考えで参入してきました。個人だと後継者がいないとそこで終わってしまうんですけど、会社でやるとなると、会社があるかぎり続いていくと思うので、そういう持続的な経営をしていかないと地域も滅んで行くのかなっていうふうに思います。それが、うちの社長がやっている「根知未来会議」っていう活動につながってくると思います。
糸魚川まで車で1時間弱。海の幸も手に入りやすい
雨飾山を日本海側から登る、その魅力とは
加藤氏 この小屋は冬の間は閉鎖して、5月中旬くらいから開くんですが、雪が消える6月末ごろから登山道整備に入ります。だいたい1シーズンに3回。草刈り機を担いで上がって、機材を置いて戻ってくる。1週間後くらいにまた行って、その先を刈る、といった感じで、3つのルートを整備しています。けっこう時間がかかりますね。梯子なんか担いで上がるともう大変。小屋のスタッフや、山の好きな人たちに頼んでいますが、やっぱり予算的に厳しくて。行政からもらえるお金がもうちょっとあると助かります。小田島建設の社員もやりますが、やっぱり歩き慣れていないと、もうバテバテです。
急坂続きだが、ブナ林に囲まれ新緑や紅葉の時期は気持ちが良い登山道
登山口の大きな木製看板。山頂まで4時間との案内が
西沢氏 確かにきつい道ですよ。本当に登りは登りばっかりだし、起伏がないですから。だから苦労して下りてきたっていう達成感がありますね。
山開きの時には、お神酒持って山頂の石仏まで登るんですよ。今年は雨で、頂上は立っていられないほどの風で。それでも下りてくれば温泉があって、「ああ、行ってきてよかったなあ」って思いました。
雨飾山のパンフレットなどに載る写真は、ほとんど向こう(小谷側)の写真なんですよね。僻んでいるわけじゃないですよ(笑)。でも、実は目で見る雨飾山ってことなら、海のほうから見ると「これはどこの山だろう」っていうぐらい立派なんです、欲目なしに。
頚城五山トレイルの区間で、大曲からこちらに下りるコースも、もう2年ぐらい頑張って整備をやっているんですけど、あまり人が歩かないので維持が難しくて。人が歩いてさえくれれば、道を維持できると思うんですけど。そういった課題はあるけれど、楽しい良い道だと思います。だから、こちらの道も多くの人に使ってもらえるようにしたいと思っていて、登山道整備では草木を切り払って、休憩場所や、写真撮影に良いスポットを作ったりもしていますよ。